序文

 時を遡ること、2018年4月、当時欧州に留学していた筆者はイースター休みということで東欧ハンガリーを訪れていたのですが、何を血迷ったかなんと帰路の航空券を買い忘れてしまったのです。さすがにUターンラッシュも近いだけに航空券はなかなかとれず、最終的に留学先のスペインに戻るのにトルコの最大都市にして在りし日のオスマン帝国の都であるイスタンブールを経由することになりました。さらに何を血迷ったのかトルコでなんと6日間寄り道する日程になってました。当初は頭の隅にもなかったトルコ滞在、初めてのトルコで現地在住の知り合いからまずお勧めされたのがバルックエクメックでした。

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バルックエクメックに出会うまで

 欧州から欧州に戻るのにわざわざアジアを経由することがあろうかという話だがイスタンブールは厳密にはボスフォラス海峡を境に西側がAvrupa(トルコ語でヨーロッパ)、東側がAnadolu(トルコ語でアナトリア、つまりアジア)で筆者の搭乗した飛行機が着陸したのはAvrupaだったのでまだ欧州を出たことにはならない。当時はまだイスタンブール新空港がまだ完成しておらず、在りし日のAtaturk国際空港が忙しく稼働していた時だった。Ataturk国際空港にはその4か月後に留学からの帰路の寄り道で再び着陸することになるのだがそれが最後になってしまった。

それはそうと、Avrupa側にある空港を出ると知り合いに出迎えられてそのまま地下鉄に乗り込んだ。知り合いの実家がAnadolu側にあるので早速欧州脱出成立である(笑)。こうして初っ端からボスフォラス海峡を渡り、やがてKadıköyからメトロで3駅のところにあるMaltepeに着いた。そこまでが前日談と言ったところだ。この時点では初トルコにして初のトルコの家庭料理に感動していてばかりでバルックエクメックの存在なんて知る由は全くない。

後日起きると朝食で改めてトルコの家庭ごはんに感動するのだが、その後はやや急ぎ足でKadıköyを目指す。そこから再びボスフォラス海峡を渡るのだが4月はまだ暖かいと保証するには尚早な時期だ。特にボスフォラスを吹き流れる風というのは侮ってはいけない冷たさだ。本当はJICAなどの支援で出来たMarmaray(TCDD/トルコ国鉄が運営する)が両岸を海底トンネルで結んでいるが、これは急いでいるときの最終手段なので今回は使っていない。4か月後は終電に間に合わせるために使ったが(笑)。

ボスフォラスフェリーの目的地であるKaraköyに着く前に同乗していた知り合いからノートを渡してと言われた。ノートを渡すなりTo do listをそこに並べていった。筆者としては何の計画も立てずに気まぐれにさまようつもりだったがここまでされると見つけないわけにもいかぬだろう。ちなみにバルックエクメックの文字を初めてみたのもまさにこの時である。そしてこう言われた。「あなたならバルックエクメックは気に入ると思う」それにしてもバルックエクメックってなんだ?(笑)。

Avrupa側に着き、間もなく知り合いと別れる。ここから先はしばらく単独行動になる。Galata塔に登って朝日を浴びるとそこでしばらくスペイン人観光客と一緒になった。彼らにしてみればトルコに来てまでスペイン語を話す日本人がいるということに衝撃を覚えたようだが筆者としてもかれこれ半月ほどスペイン語圏を離れているので忘れるわけにはいかなかった。おかげさまでスペイン語のリハビリには丁度よかった。そういえば例のバルックエクメックだがGalata橋を渡ったところにあるらしい。Galataという名前がついているのだからそう遠くはないはずだ。

Galata塔を後にすると今度は坂道を下る。Karaöyに着いたときはそこからトンネルというイスタンブール初代の地下鉄(地下ケーブルカーの方が近い?)で坂を登ったのだがここからは自らの足で下る。下り坂は思いのほか急だ。まさかイスタンブールが坂道の多い街だったとは驚きだ。4月はまだ暑くないからいいのだがこれが真夏だと歩くには少々キツイものがある、というより4か月後に再訪したときはジメジメした暑さで正直倒れるかと思ったほどだ。

それはそうと坂道を下り終え、もうしばらく大通りに沿って歩くとやがて橋が視界に入ってきた。これがGalata橋で、イスタンブールの名所のひとつにもなっている。4か月後に再訪したときもここでしばらく潮風を浴びて涼んだものだ。ここはいつ歩いても釣り人が多い。挙句に釣り餌売りやお茶売りもここに居座っている。橋から海面を覗いてみるとプランクトン(特に植物プランクトン)が大量にいるからなのか緑っこい水だったが確かに見える分だけでも魚は多い。筆者が見た限りではボラとアジの類が特に目立った。観光名所というより釣り名所の方が正しい気がしないでもないがその釣り人たちのいる光景もまた味のある構図になることは間違いない。

渡り終えたところで謎に小舟の集まっている一角を見つけた。Balık ekmekと書いてある。これがお目当てのバルックエクメックになるのだがBalıkとはトルコ語で魚、ekmekはパンになる。つまり直訳すれば魚パンということになる。もしやさっきの釣り人はその魚パン用の肴を釣っていたのかと想像できなくもないがそれは分からない。

バルックエクメック

バルックエクメック

これがバルックエクメックだ。魚パンと直訳できると先述したがこれは確かに文字通りの「パン+魚」だ。強いて言うならば野菜も若干入っていることには入っている。小舟が集まっているとも言ったが店舗もそれだけあるうということだ。しかし、それぞれ値段が殆ど変わらないのでとりあえず入りやすそうなところに入っていけばそれで問題はない。それにしてもここで知り合いが「気に入ると思う」と言った理由が分かったのだが筆者は肉食より魚食な人なのでそれを分かった上でこれを勧めてくれたのだろう。しかも当時学部生だった筆者は水産学部にいた。

それはさておき、食べてみよう。お好みで塩やレモン汁をかけるということだったがまずは味見も兼ねて何もかけずに食べてみる。味は想像以上にあっさりしている。葉物と生の玉ねぎ、ネギがとてもよく効いている。魚はというと脂の乗りがちょうどよく、どちらかというとさっぱりしている。使っている魚は鯖で、先ほどGalata橋の釣り人達が釣っていた魚ではなかった。ともかく何もかけずとも美味しい。今度はレモン汁を3滴ぐらい垂らしてみた。口にしてみた途端の破壊力がすさまじい。それもポジティブにすさまじい。さっぱりを通りこえてあっさりした味になったからだ。

直訳すると「魚パン」と大したことなさそうな名前だがいざ食べてみればイスタンブールの名物のひとつになっている理由がよくわかる。個人的には大根おろしと醤油もつけて食べたかったくらいだがそれでは食べ物が変わってしまうので自重しよう(笑)。それにしてもこの「魚パン」で使っている魚は果たして鯖だけなのだろうか。ボラは確かに臭いが強い場合があるので使われにくいとは思うが、アジは身がさっぱりしているのでこの「魚パン」に挟む上で相性はいいと思うのだ。

二度目の朝ごはんなのか早すぎる昼ごはんになったかどうかは分からないが「魚パン」をぺろりと平らげるとその小舟を後にし、散歩を続けた。それにしても4か月後に再訪したときにこれを食べ忘れてしまったのがなんだかもったいないものだ。

 

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