序文

 時は遡って2019年の3月、学部生としての生活を終えようとしている中で卒業旅行先として訪れたところは中央アジアのカザフスタンでした。10日間の滞在の内かつての首都にして最大都市であるアルマトイ(旧名アルマ・アタ)には3日間滞在しました。アルマトイに着く前は食物語初回で登場したトルキスタンで、カザフスタンにいるのかウズベキスタンにいるのか分からないようなところに滞在していた間にラグマンに出会ったわけですが、アルマトイではまた別の麺料理に出会います。その名はベシュバルマクでした。

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ベシュバルマクに出会うまで

 ベシュバルマクのことについてはカザフスタンに入国する前からある程度耳にはしていた。カザフスタンの誇る馬肉文化を構成する食べ物の一員だ。厳密にはベシュバルマク自体は必ずしも馬肉料理といえるわけではないようだが、少なくともカザフスタンでは大概馬肉がしっかり入っている。それでも必ずしも馬肉料理と言えるわけではない事情については後で食べながら説明することにしよう。

 実際にベシュバルマクを口にすることになったのはアルマトイに着いてから2日目のこと、カザフスタン旅行もすでに後半に入っていた。翌日は朝一番のフライトでアスタナ(現ヌルスルタン)に戻り、そのさらに翌日には北京経由で帰国の途につく。ラグマンやプロフ(カザフスタンではウズベク系の多い南カザフスタンでよく食べられるピラフ)、ピロシキなどはよく食べたがベシュバルマクに出会うまではずいぶんと時間を要したものだ。

 ベシュバルマクを食べる前日、アルマトイ初日のことだった。とりあえず地下鉄に乗るということでアバイ駅から2駅乗ったのだがいざ降りてみるとコクバザール(グリーンバザール)が近かったのでそこでお惣菜を買うことになった。この市場でのお惣菜についてはまた別の機会で取り上げることにするが、ここは意外にもキムチが目立つ。もう少し奥に行くと精肉コーナーがあり、そこで見慣れない肉や腸詰を目にした。そうか、これは馬肉だ!

 カザフスタンに来てからウシを全然に目にしていない。代わりに馬の放牧をよく目にしたのだが太っているものも多かった。そういう馬は大概食肉用になると耳にしたことがある。日本で食される馬刺しにしても馬は中央アジア(おそらくカザフスタンだろう)産であることも少なくないそうだ。気にはなっていたが結局は馬の腸詰やらを買うことはなく、代わりに馬肉を使ったキムチなどを買ってコックバザールを後にした。この日はそれを夕飯にしたのでこの時点でまだベシュバルマクを目にしてはいない。

 翌朝の朝食は昨晩の馬肉キムチの残りを平らげた。本題から逸れているようではあるがこの馬肉キムチが案外美味しいのでアルマトイを訪れることがあれば一度買って試してみることをおすすすめする。それにしてもベシュバルマクはどこで食べられるのだろう。カザフスタンでの外食というのは財布が最も悲鳴を上げやすくなるもので、いわゆるレストランは問答無用に高い。日本と同じか少々高い具合だろう。もちろん食物語初回のトルキスタンのように大衆食堂(露:スタローバヤ、カザフ:アスハナ)があれば財布の悲鳴は緩和される。

アルマトイにも当然何軒かは存在する大衆食堂ではあるが、外食全般でカザフの伝統料理を提供しているところを見つけるのは案外大変だった(笑)。カザフ料理は本来家で食べるものであって、外食してまで食べるものではないという意識が関わっているのだろう。結局はとある日本人のブログを見て的を絞った。筆者の泊まっていた宿の斜め向かい側とはまさに灯台下暗しというものである。この後は1日に山を2回も登る羽目になったが後悔はしていない(笑)。

ベシュバルマクと対面

 突貫観光の後はアバイ通りから坂を登って例のアスハナに着いた。アスハナとは言ってもそれにしては二階建てな上に入ってみれば雰囲気はもはやレストラン以外の何物でもない(笑)。正直一人で入ろうという気にはなかなかならなかったが、とりあえず上がってみる。幸いにも英語はある程度は通じるようだ。メニューもある。英語表記付きだ。メニューがある時点でここはレストランであることを確信した。それはいい、とりあえずベシュバルマクとウズベク緑茶を頂くことにしよう。

ベシュバルマク

 平麺の上に馬肉(腸詰含む)、羊肉、玉ねぎなどが乗った麺料理で出自は初回で紹介したラグマンと似ているばかりか共通点すらある。それも麺料理であること以外だ。ヒントはルーツを共有しているという点だ。初回を読んでいただいた方ならお分かりかと思うが、これもまたウイグル(現新疆ウイグル自治区、トルコ語圏では東トルキスタンと呼ばれる)発祥の料理である。ウイグルで発祥してそのまま今のカザフスタン南東部国境(アルマトイも近い)を越えてカザフ入りしたのかと思えばそうではなく、まずは現在のキルギス共和国に伝わるわけだがこの時点ではまだ馬肉は入っておらず、羊肉が中心だった。これが天山山脈を越えてついに現在のカザフスタンに入ると、そこで馬肉が入るようになった。これがカザフ料理としてのベシュバルマクなのである。

 それでは食べてみよう。昨日気にはなりながらも結局試さなかった馬の腸詰だが、これが少々筋肉質な(つまり硬い?)わりには脂の乗りも良くとても味わい深い。特に脂は馬刺しを食べているのかと錯覚したほどだ。馬肉本体はというとこれも少し筋肉質な感じはあったが硬いとはあまり感じない。ちなみに肉は焼くのではなく茹でるか煮るそうだ。プロフ(ピラフ)を作るときも肉を含め具は基本的に茹でたり煮たりしてやわらかくする。いわれてみればカザフスタンに着いてからいわゆる焼き物は見ていない気がする。

 麺はどうだろう。日本では見慣れない平麺ではあるが食べてみるともっちりとした食感がまた心地いい。しかも肉汁もある程度吸っているので具材との相性は抜群だ。特に柔らかく甘くなった玉ねぎと腸詰を合わせて食べるとほんのり旨味の効いた味わいがあってフォークが止まらない。本来ならベシュバルマクは手で食べるものであったがここではフォークとナイフがしっかり用意されているので、お言葉に甘えてそれを使わせてもらった。ただ、家庭に招かれてそこで御馳走ということでベシュバルマクをふるまわれたら右手で食べることになる。繰り返し述べるが本来なら素手で食べる料理だからだ。

 あっさり完食したかと思えば腹八分を通りこえて満腹になっていた(笑)。見た目では多そうには見えなかったが案外ボリュームに富んでいる。しかもそこにウズベク緑茶のやかん1杯分をさらに喉に流し込むわけだから眠気を誘うほどの満腹だ。それでも目を開けたままにして回りを見渡せば、人はとにかく少ない。広いわりには10人も見かけていない。きっと平日の夜だからであって週末になると人はもっと多いのかもしれない。

筆者のアスタナへのフライトは翌朝なのでそれを見て確かめることはできないのだがそれはさておき、会計だ。4000テンゲほど、日本円に直せば約1000円前後だ。これは決して安いとは言えないが旅人の財布としては許容範囲内だ。会計を終えたら宿で荷物を詰めなければ。

 

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