序文

 7月25日から始まった新島滞在2日目、午前中は海岸に行こうとしているのに登山してしまったり、博物館では展示よりも民俗誌を読み倒すことに時間を割いたりとある意味忙しかったですが午後になるとそれは一転、夕方までは何もしない時間が始まります。日暮れ前にとある神社に行こうとして想像以上にハードな参道で全身汗だく、しかも不気味な道に冷や汗までかいてこれまた忙しい展開でしたがこの後温泉で汗を流すや否やまっしぐらにある店へ向かいました。そこに筆者のお目当てだった島寿司があるからです。

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島寿司を食べるために…

 午前中は何かと妙に忙しい展開だったが一度昼食を腹に収まる範囲の限界まで流し込んでみれば、間もなく強烈な眠気に白旗を揚げるしかなかった。しかも足は筋肉痛、新島についてからやたら歩くようになった気がする。筆者はもともと運転免許を持っていないから新島のような公共交通機関というものがそもそも存在しない場所で「歩かない」という選択肢はまず存在しない(笑)。それにしてもこういう場所に運転免許もないというのによく行こうと思ったものだが幸いにしてこの島は大きくはないので往復1時間歩けば筆者の泊まっている本村からサーフィンの名スポットである羽伏浦海岸までは問題なく行ける。問題は島の南北がやや険しい山であるところなのだが….。

 それはさておき、今宵がひとまず新島での最後の晩餐?になるのでここは島寿司を食べることに決めた。しかし昼食が異次元の量だったのでそれをなんとか消費しなくてはいけない。満腹状態で夕食の席につくことだけは避けたかったのだ。そこで昼寝をした後はまた外に出ることにした。予報が正しければそろそろ雨に降られるはずなので前浜で缶コーヒーを片手にかれこれ2時間近くぼーっとした。厳密にはぼーっとしつつ前日のくさやを回想しながら執筆していた。食物語第3回だ。それにしても改めて強烈な食べ物だったが後々メニューを除いてみたらくさやピザがあったのでこれもまた気になって仕方がない。とは言っても今日の本命は島寿司なのでこれは次回来島したときの宿題にしよう。やれやれ、このシリーズは執筆しているだけで無性に空腹になるところがつらい(笑)。

 それはそうと、食事前に温泉につかりたかったのでまずは10分か15分ぐらい歩いて湯の浜露店温泉に向かう。途中で神社に寄り道したがすでに7時になろうとしていただけのことはあって獣道同然の参道は歩きにくい上に背筋が凍るほど奇妙に暗く、しかも蚊の集中砲火を終始浴びるという惨事だった(笑)。肝は冷やし、かつ全身汗だく、これでかなり体力を消耗したことには間違いない。この後が温泉でよかったものだ。

栄寿司の島寿司

 湯につかった後に向かったのは栄寿司という店だった。島内ではとても名高い店だそうなのだがここはただの寿司屋ではない。食物語の舞台が新島にうつってからこのくだりが多いがこの寿司屋については島寿司を扱っているのであって日本で一般的な型の寿司とは一味違う。いざ食べてみる前にひとつ、忠告をするとここは夜10時まで店は開けるが食べ物のラストオーダーは8時45分とはやいので着くタイミングを間違えると大変なことになる(笑)。

島寿司

 これが今回のお題になっている島寿司だ。上から順にメダイ、カンパチ、マダイのそれぞれ三貫ずつある。それにしても一般的な寿司と何かが違うわけだが、まずは寿司ネタの色に注目してみよう。寿司ネタが若干茶色っぽくなっているところがお分かりだろうか?これは寿司ネタが一度「漬け」になっていることに由来する。何につけているかというと唐辛子醤油だ。寿司ネタをよく見ると時々赤い小片が見当たるがそれは唐辛子の一部だ。そういえば唐辛子というと島唐辛子というのがあっただろうか。このように漬けるのは保存効率を上げるためだそうだ。もうひとつ、わさびの代わりに辛子が乗っている。しかもすし飯とネタの間ではなくネタの上に乗っている。

 実はこの島寿司、伊豆諸島各地で食べられており、中でも特に八丈島のものが名高い。伊豆大島では食物語第2回で取り上げた「鼈甲鮨」がそれに近いか同じ存在で、魚を唐辛子醤油に漬けたものを「鼈甲」と呼んでいる。鼈甲鮨にしても島寿司にしても基本はムロアジを中心に使うことが多いらしいが他にもシイラなどの回遊魚なども使う。さすがは黒潮海域に近いだけのことはある。

 ということで新島の島寿司を早速いただいてみよう。身はテカテカしている、脂の乗りはばっちりだ。マダイ、カンパチ、メダイ、マダイ、カンパチ…..の順でいただこう。唐辛子醤油に漬けているとは言え、味は辛子に由来するものを除けば辛くはない。むしろ、ほんのり甘いくらいで、これが脂の味をさらに引き立てるほどだ。身はというとコリコリしつつ最後にはとろけてしまうような具合だ。

以前取り上げたくさやは好き嫌いをはっきり分ける強烈な食べ物だったが、こちらはやみつきになってしまう人が多いのではないだろうか。しかも本土でそれらしいものを食べられるのは今のところ竹芝桟橋くらいしか筆者は知らない。これはどうやら島に実際に行かなければなかなか味わえない食べ物だ。

それはそうと、箸は止まるところを知らないわけだが途中で気が付いたことが一点ある。唐辛子醤油に漬けられた身は確かにほんのり甘いものを感じたがそれだけでなく寿司飯もはっきりと甘いものを感じた。それも普通の寿司飯よりも少々甘い。そういえば島寿司を作るにあたって寿司飯を準備する際に砂糖もいくらか混ぜるというのを耳にしたことがある。甘いというと南(伊豆諸島、南九州及び以南)の料理は何かと甘い料理が多い気がする。さつま揚げも若干甘い上、鹿児島の酒寿司ときたら島寿司以上に甘い。

そういえば竹芝で鼈甲鮨を食べていたときに寿司に巻いていたシソの葉?がここではなかった。写真を見た限りでは伊豆大島の鼈甲鮨と八丈島の島寿司についてはシソの葉を巻いてあったがここ新島ではそれはなかった。とは言ってもまだ1軒目なので断言することはできないがこれが恐らく島ごとの違いとでも言うべきところなのだろう。

食べ終わったころには既にラストオーダーとなる8時45分を過ぎていた。生ビールをぐびぐび飲み干しながら食べる島寿司はなんとも幸せ以外の言葉が見当たらない美味しさで、筆者はすっかり虜になってしまったようだった。次回は地酒や島の焼酎をひっかけながら食べるのもいいだろう。これはまた新島に行くのが楽しみだ。恐らく2か月後に再び行くはずだ。その時に再び食べに行こうと胸の中で誓うとごちそうさまに一言を告げて会計に立った。2700円ほどだったろうか、院生である筆者には贅沢なものではあったがこれはまた食べに行きたいし次回来島したら間違いなく行くだろう。

こうして海遊びを完全におろそかにした?新島の旅はひとまず終わりに近づこうとしていたが、それは後日午前中の高速船が欠航にならなければの話だ(笑)。筆者は既に欠航になったらまた食べに行こうとすら考えていたが、現実とは時に妙なもので、台風が近づいているはずなのに後日は何の問題もなく出港してしまったのであった(笑)。

 

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