(【28】より続き)

コスモス畑

コスモス/秋桜。
どんなイメージを持たれるでしょうか?
コスモスの意味はギリシャ語なのですが、「美しさ」「調和」「宇宙」です。
花言葉は、「乙女の真心」「調和」「謙虚」。
可憐で様々な優しい色合いを見せてくれる花です。
千秋のイメージとはかなり違います。
当然、食べることもできません。
嵐山・高雄パークウェイという自然公園のドライブウェイの中で「フラワーパーク・コスモス園」というのが毎年開催されています。
大きな池での手漕ぎボートや巨大な滑り台にトランポリンも備えた公園がありますし、何といっても嵐山は京都を代表する観光名所でもあり、そこを山から見下ろすことのできる場所です。むかしは結構人も多かったのですが、今では少し閑散とした場所でもありますが、出掛けてみる事にしました。

実はこの嵐山・高雄パークウェイというのは、私にとっても思い出深い場所なのです。
私の既に亡くなった父が、この嵐山のある嵯峨という街で長年働いておりましたので、私が小学校の低学年ぐらいの頃、よく父・母と兄弟3人ここへ連れて来てもらっていたのです。30年ぐらい前には、私が自分の子供達を1,2度連れて来た事があるのですが、それ以来です。
父母・私・子供達・孫と4代に渡るという事です。
そう考えると、少し寂れて(?)きたこのドライブウェイですが、特別で大切な場所と言えるでしょう。
大きな池で千秋とボートに乗りながら、そんな感慨に耽っておりました。
肝心のコスモスには、あまり千秋はハマらなかったようではありますが。

4歳の誕生日プレゼント

「モカちゃん?なんやその名前は?」
「お父さんこそ、千秋の友達の名前に文句あるんか?凄くいい子やで」
「いい子かどうかは見た事もないから分からんけど、コクがあっていい香りがしそうな子やな」
「最低」
実の娘に「最低」との評価を受けた私は、名前の印象で文句を付けてしまった事に深く反省するものの、やはり千秋の誕生日の欲しいものリストNO1に挙がっているローラースケートだか、ローラーブレードには賛成できません。
「とにかく、そんな物は絶対に買わないし、そんな危険な物で遊ばせるのも絶対に許さんからな」
娘の父親として、家長として、そして何より大切な千秋の為に、ここは一歩も引かない気持ちです。
腕を骨折して包帯で吊っている姿や、足を骨折して松葉杖をついている千秋の姿など見たくもありません。それどころか、万一打ちどころが悪かったり、運悪く車とぶつかったりなんてことになったらと思うと、何としても止めさせなければなりません。
出来る事なら、そんな危険なもので遊んでいるという、良い香りでコクのある女の子も説得したいぐらいです。
「ヘルメットもかぶるし、膝当てや肘当ても必ず付けて遊ぶんやから大丈夫や」
そんな、明らかに危険を前提にした防御をしなければ遊べないようなものを、堂々と説明してくる娘の気持ちが分からない。
「千秋、他のものにしよう。ヌイグルミや人形はどうや?メッチャ大きいのを買ってやるぞ」
「そんなんいらん」
「わかった、千秋の欲しいもの何でも買ってあげるから、ローラーブレードだけは止めておこう。ジェーはそれだけは反対や」
「別にいいよ。もう誕生日プレゼントなんかいらない。もう一生何も買ってくれなくていいから」
もう一生って?まだ生れてから4年しか経っていないのに?
わずか4歳でこんな表現ができるものなんだ。
と、ちょっと驚きです。

女という奴は、4歳でも24歳でも54歳でも変わらない。
こんな時のベストな対応の仕方をご存知の方がおられるのでしたら、是非ご教示いただきたいと心底思います。
娘の父親として、家長として、そして何より大切な千秋の為というような威厳は私自身以外誰も認めてくれないようです。
それからも抵抗を繰り返した私の努力も実らず、4歳の誕生日プレゼントとして、千秋の手にはピンク色のローラーブレードが渡されました。
・絶対に車の来るところで遊んではいけない。
・大人のいないところで、子供だけで遊んではいけない。
・ヘルメットと膝当て、肘当てを必ず付けて遊ぶこと。
・他の子達とぶつからないように、小さな子がいるところでは絶対に乗らない。
「この4つは絶対守りなさい。ほらっ、自分で言ってごらん」
全く聞こえない振りで私を無視して、家内に笑顔を振りまく千秋。
もう一度言います。こんな時のベストな対応の仕方をご存知の方がおられるのでしたら、是非ご教示いただきたいと心底思います。

8分の心配と2分の怒りを感じながら、ローラーブレードを抱えて外へ出て行く千秋の後を追います。
そこには噂の「コクがあっていい香りがしそうなモカちゃん」が既に何とも見事な技術でローラーブレードで遊んでいます。
まっさらなピンクのローラーブレードを抱えた千秋は満面の笑顔でモカちゃんに近寄り、自慢気に見せているようです。
早速ヘルメットとサポーターを装着し始めました。
その間もモカちゃんは見事な技術でローラーブレードを操り、もの凄いスピードで壁に向って行ったかと思うと回転するように90度方向を変えて滑走しています。
「こんなこと覚えたら絶対に危ない」
と私の心配をよそに準備万端の千秋。
一度も私の方を見る事もなく、勢いよく壁から手を離します。
次の瞬間、千秋の両脚は空に向って跳ね上がり、鈍い音とともに千秋は背中から地面に叩きつけられていました。ヘルメットは被っていますが、後頭部も間違いなく強打しています。私の体は瞬時に反応し、千秋に向ってウサインボルトにも負けないスピードで空を切っていました。
最悪の事態が頭をよぎります。
どうして最後まで徹底して反対しきらなかったのか。
「千秋、大丈夫か?」
倒れている千秋の顔を覗き込むと、千秋は微動だにせず空を見つめています。
私に気付いた千秋は。
「大丈夫、ジェーはあっち行って」
どうやら何ともなかったようです。いきなり派手に転んで、自分でも驚いただけのようでした。
千秋はもう一度壁に手をやって、どうにか立ちあがるともう一度走り出そうとしましたが、その瞬間にまた同じように転びました。
今度もヘルメットやサポーターがこの子を守ってくれたようですが、千秋はそのままローラーブレードもヘルメットも脱いで、それをその場に放り投げたまま、私を振り返りもせずに家に向って走りはじめました。
私はそれらを拾い集めてから千秋の後を追いました。

家に戻ると千秋は大好きなオカンに抱きついて泣いています。
どうやら千秋は、ローラーブレードを履けばすぐにモカちゃんのように華麗に滑れて、練習や技術の取得なんていうことは考えてもいなかったようです。
4歳の誕生日プレゼントであるローラーブレード一式は、包装紙を破いてから20分後、二度のチャレンジだけで、その役割を終える事になりました。
まだ生れてから4年しか経っていない千秋ですが、多分「一生ローラーブレードでは遊ばない」だろうと思います。
そこそこの値段がしたプレゼントがあっと言う間に要らないゴミになってしまったことは残念ではありますが、毎日事故の心配をしているより全然マシです。
しかも数日後、ゴミと化したかと思われたローラーブレード一式が、娘によってメルカリで現金化されたと聞かされました。
危険も去り、心配も無くなり、使わないローラーブレードを置いておいてもしょうがないのですから、それはベストな判断なのでしょう。なのでしょうが、孫の為に散々悩んで葛藤もして買ってやった誕生日プレゼントをすぐに転売するというのは、少しだけモヤモヤしたものを感じる出来ごとでした。
孫も娘も、女なんてこんなものなのでしょうか?

(続く)