ゾウは、陸上において最大の哺乳動物です。
今では、動物園などでしか見られないゾウたちですが、昔は世界中の広い地域に生息していました。
人間にとっても身近な動物で、牛や馬と同様に家畜のように飼われていました。
そして、牛馬が日常の作業だけでなく戦争の際にも使われていたように、ゾウたちも戦場において利用されるようになっていきました。

人類とゾウの歴史

人類がいつからゾウを家畜として使うようになったのか、たしかなことはわかっていませんが、インドやアフリカの古代遺跡に描かれている壁画から、紀元前9世紀頃には人に飼われているゾウたちがいたようです。
ゾウにもいろいろな種類がありますが、インドで飼われていたのはインドゾウ、アフリカで飼われていたのはアフリカゾウだとされています。
しかし、アフリカゾウは性格が凶暴なため人が飼い慣らすのは難しいことから、別種であるマルミミゾウや、北アフリカが砂漠化する以前に生息していたサヘルゾウではないかという説もあります。
古代から中世、そしてアジアから地中海地域と、戦象は、幅広い時代・場所において使用されていました。
中でもポエニ戦争でのカルタゴのハンニバルによるアルプス越えでの戦象隊が有名です。

16世紀以降は大砲など火器の発達によって戦象は少しずつ戦場から姿を消していきましたが、タイでは背中に大砲を乗せた戦象が19世紀まで使われていました。
現代ではさすがに戦争に使われることはありませんが、インドや東南アジアの国々ではゾウが荷役などの労働力として使用されているところがあります。
戦象の場合は軍馬のように荷物を運ばせるというよりも、最初から戦闘で使うことを目的としていたようです。

戦象がいつから戦場に投入されたかはっきりとしたことはわかっていませんが、インダス川流域では紀元前からケッダといわれる罠を使って捕獲したゾウを飼い慣らしていて、戦象についてもインドや中央アジアにおいて初登場したのではないかという説が有力です。
インドでは紀元前4世紀ごろには、すでにゾウを使って戦う技術が確立されていました。
ゾウは巨体とパワーに加えて高度な知能ももっていて、さらに、低周波を使って仲間内で会話をする能力や、足の裏で音を感じ取る能力などももっているといわれます。
古代においては他に並ぶもののない存在で、うまく使いこなすことができれば、戦場において大きな脅威となる、まさに古代の重戦車だったのです。

戦象の戦い方

さて、それではゾウたちは戦場でどのような戦い方をしていたのでしょうか?

1) 兵士の跨乗

世界各地で使われていた戦象ですが、その戦術についてはどの地域でも大差ないもので、多くの場合はゾウの上に人の乗れる駕籠のようなものを背負わせ、そこに弓や投げやりなど投擲兵器をもった兵士たちを乗せていました。
駕籠ではなく、絨毯を背中の上に乗せてその上に人が乗る場合もあり、また、兵士ではなく指揮官などが乗って指揮を執る場合もありました。
戦象というと、ゾウを使って敵を蹴散らしたり踏み潰したりというイメージがあると思います。
実際、こういった時代の絵画などでも戦象をそのように描いているものが多くあります。
しかし、ゾウという生き物は立っている人間を踏み潰せるほど高く足を上げることができません。
人間を乗せた戦象が敵に突進していき、上の兵士たちが弓など飛び道具を使って敵を攻撃するというのが基本の戦法でした。
歩兵を随伴させたり、騎兵やチャリオットなどと組み合わせて運用したりもしました。

2) 戦象の装備

戦象は突進によって敵の戦列を突き崩したり、攻城戦に用いられたりもして、木造の壁や弱い建物なら体当たりで破壊することもできました。
ゾウ自身も鼻の部分に槍や槌を取り付けたり、牙に鋭利な金属製のキャップのようなものを取り付けたり、武装をすることもありました。
しかし、これは実戦ではあまり役に立っていなかったようです。
味方の士気を高揚させるために高級指揮官が乗った戦象に、派手な鎧を着せたり、宝石を取り付けたりすることもあったので、ただの装飾だったのはないかという話もあります。
しかし、ゾウのような巨大な生き物が隊列を組んで向かってくるというのは、敵からすれば大きな脅威でした。
その昔、ゾウは倒れた人間を踏む習性があると信じられていたため、兵士たちは地面に屈んでやり過ごすよりは逃げ出すことを選び、部隊を潰走させることもありました。
やはり、戦象は味方にとって頼もしい戦力だったのです。

戦象の弱点

では、今度は戦象と相対していた敵の側はどのような対策をとって戦っていたのかをみていきましょう。
巨大な戦象とはいえ、もちろん無敵というわけではなく、むしろ弱点の多い兵器であったといえます。

1) コントロールが難しい

そもそも、ゾウは草食動物で大人しい性格のため、戦争で使えるほど攻撃性は高くないのです。
ゾウが暴力的な行動をとるのは、自分や仲間を守るときや、パニックを起こしたときだけで、戦象といっても自分から積極的に戦おうとすることはありませんでした。
そのため、ほとんどの戦象は戦闘の前に酒を飲ませて酔わせたり、場合によっては麻薬を与えるなどして興奮状態にしたり、ゾウをわざと傷つけて怒らせるといった残酷な手段を使って凶暴化させられていました。
ですが、こんなことをすれば当然、ゾウたちは冷静さを失い、いくら調教していてもコントロールするのは至難の業です。
戦象を使う軍隊は熟練した象使いたちを抱えていましたが、彼らをもってしても、戦場でゾウたちを100%意のままに操ることは不可能でした。
戦象は方向転換どころか、停めることさえ難しく、味方に被害を及ぼさないよう戦象隊は戦列の最前列に配置されることになっていました。
敵もこれをわかっていて、戦象たちがくると左右に避けてやり過ごし背後に回って攻撃をかけるという戦法がとられていました。

2) 巨大な体が的になる

戦象は確かに巨大ですが、逆にその巨体は大きな的になるともいえます。
といっても皮膚が分厚くて硬いため、弓矢などはあまり有効ではありません。
戦象と戦うには、ゾウの至近距離まで向かっていくという、とてつもない勇敢さが必要とされました。
もし勇気を振り絞り、ゾウの胴体付近まで接近できれば兵士たちを乗せている駕籠の帯を切ったり、足の付け根の皮膚の柔らかい部分を狙うこともできました。
ほかにも、ゾウの足の筋を切るなどして戦うこともできましたし、ゾウの腹の下に潜り込んで切り裂くという方法もありました。
もちろん、敵も接近されるとまずいことがわかっていたので、ゾウの足元には護衛のための兵士をおいておくこともありました。

3) 暴走すると手が着けられなくなる

戦象のもつ一番の弱点であり、対抗策として最も有効だったのが、ゾウの暴走でした。
戦象を暴走させる方法としてもっとも簡単なのが、象使いを殺してしまうことでした。
象使いは、ゾウの背中など高所の比較的狙いやすい位置にいることも多く、彼らがいなくなると、ただでさえ興奮しているゾウは暴れ出し、味方兵士を振り落としたり、周りのものを見境なく蹴り飛ばしたりといった味方にも甚大な被害を及ぼす大暴走の引き金となりました。
そのため、暴走した場合に備えて木槌とノミが用意され、ゾウが暴れると首と背骨の継ぎ目にノミを突き刺し、即死させるという最終手段がとられていました。

まとめ~戦象は有効な兵器だったか?~

見てきたように、戦象はその巨体を活かして戦場において活躍していたことは事実ですが、反面弱点も多かったといえます。
もちろん弱点のない兵器というものは存在しませんが、戦象の場合はそれに加えて使いこなすが難しいというのもウィークポイントになっていました。
訓練され、意のままに操ることができる戦象部隊がいれば、それこそ戦争においては強力な戦力になってくれるでしょう。
しかし、実際には戦象は前進するだけといった単純な動きしかできず、歩兵や騎兵が連携して戦うことが前提の軍隊においては、調教や飼育にかかったコストが取り返せるだけのメリットがあるとはいいがたかったのです。
結局、指揮官を乗せて味方の士気を鼓舞するという飾り物のような使い方が、戦象のもっとも有効な使用法だったのではないでしょうか。

 

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