国別対抗戦とは

4月11から福岡県のマリンメッセ福岡で開幕したISU 世界フィギュアスケート国別対抗戦。
この一戦は、2年に1度開催される国同士が戦う団体戦である。
各国ごとに、男子シングル2名・女子シングル2名・ペア1組・アイスダンス1組という代表選手が選ばれ、各種目の獲得ポイントの合計で順位を競う。
前回の2017年大会では日本が優勝しており、今大会も羽生結弦こそ欠場したものの、男子シングルでは宇野昌磨と田中刑事、女子シングルでは紀平梨花と坂本花織というほぼベストメンバーで臨んだ。
もちろん、日本が目指すは大会連覇である。

個人戦とは一味違う雰囲気

私は、これまで1度も国別対抗戦を観たことがなかった。
オリンピックや世界選手権に比べると大会としての格が落ちることに加え、個人戦に比べるとイマイチのめり込むことが出来なかったからである。

しかし、本大会を観戦し、これまで抱いていた印象がガラリと変わった。
外国チームだけでなく、日本チームの面々も普段では見られない表情を見せてくれたことが、とても印象に残っている。
日本人選手たちが被り物をしながら、はしゃぐ姿は思わず笑ってしまう。
特に、かつらを被った坂本花織のコスプレは、後になればなるほどジワジワきた。
その中でも、田中刑事がフリースケーティングで渾身の演技を見せたあと、紀平梨花と坂本花織のふたりで「あとは任せろ!」と書かれたメッセージを掲げたシーンは、ユーモアとともにある種の感情を抱かずにはいられなかった。
それは、団体で戦うことの素晴らしさと、紀平と坂本の頼もしさである。
この両名だったら翌日のフリースケーティングで、必ずや素晴らしい滑りを見せてくれるに違いないと思わせてくれるのであった。

今大会で印象に残った選手たち

1.紀平梨花

まずは、ショートプログラムで世界記録を更新した、紀平梨花に触れないわけにはいかないだろう。
83.97点を出し、自身の持つ世界最高得点を1.46点も上回る快挙を達成したのだ。
これは、ルール改正前の平昌オリンピックで、アリーナ・ザギトワが出した82.92点をも超える驚異のハイスコアである。
これまで課題としていたショートプログラムでのトリプルアクセルも完璧に着氷し、その後もノーミスで滑り切る圧巻の演技で世界を震撼させた。

ところが、フリースケーティングでは一転して、冒頭のトリプルアクセルで転倒するなど、精彩を欠いてしまう。
私が特に驚いたのは、3回転ルッツ+3回転トゥループのコンビネーションジャンプを失敗し転倒してしまったことだ。
今シーズンの全試合を観戦したわけではないが、トリプルアクセル以外のジャンプで転倒する姿を見るのは初めてであった。

しかし、切り替えの早い紀平は、翌日のエキシビションでは彼女らしい伸びやかな滑りを見せてくれた。
来シーズンは、トリプルアクセルに加え4回転ジャンプも跳ぶという。
男子顔負けのプログラム構成に挑む紀平梨花からは、ますます目が離せなくなるに違いない。

2.宇野昌磨

大会に臨むにあたり、「世界選手権の借りを返すのではなく、来期につながる新しいスケートを見せたい」と語る宇野昌磨。
その言葉通り、大幅に演技構成を変えての戦いとなる。

ショートではミスが目立ち、3位で終わる。
私が宇野昌磨に感動したのは、フリーでの演技であった。
冒頭の4回転フリップ+3回転トゥループのコンビネーションジャンプを着氷すると、続く4回転フリップも溜め息がでるような美しいジャンプを決める。
今年、国際大会で一度も決めることが出来なかった4回転+3回転のコンビネーションジャンプを、シーズンを締めくくる大会で成功したことに深い感慨を覚えた。
そして、演技後半の体力的に苦しい場面で、トリプルアクセル+4回転トゥループという、現時点で考えられる最高難度のコンビネーションジャンプに挑んだのだ。
結果は、アクセルを着氷した後の4回転で転倒してしまい失敗に終わったが、素晴らしいチャレンジといえる。
宇野昌磨というフィギュアスケーターが持つ、高い志の一端を見ることが出来た瞬間であった。

3.田中刑事

これまで、田中刑事について印象に残ることは皆無であった。
大変申し訳ないのだが、今回も全く期待していなかった。

ところが、この国別対抗戦で見せた田中刑事の演技には、深い感銘を受けずにはいられなかった。
普段の個人戦に比して、見違えるような演技を見せる力は、一体どこから湧き上がってくるのだろう。
ショートでは、4回転ジャンプを決め4位と大健闘をみせる。
フリーでも、冒頭のジャンプが3回転になるが、続くジャンプを4回転でリカバリーし、見事に立て直した。
そして、演技後半にアップテンポな曲調に変わると、そのリズムに合わせダイナミックでスピードあふれる滑りを見せる。
演技終了直後、精も根も尽きた表情を見せる田中刑事の姿に、全身全霊を賭けて挑んでいたことが伝わってきた。
松岡修造が「田中選手には力がある。それを試合で発揮できないだけだ」と言っていたが、国の威信を担う戦いで見事に潜在能力を発揮したということだろう。
あと、田中刑事を発奮させたことがあるという。
それは、宇野昌磨が高難度プログラムで挑む姿勢に、刺激を受けたと言うのだ。

「少しでも、後の選手に繋げたいと思って滑った」と語る田中刑事。
これこそが、心震わす演技の源泉になったに違いない。
今大会で最も感謝の言葉を述べたい選手、それが田中刑事なのである。

4.エリザベータ・トゥクタミシェワ

エリザベータ・トゥクタミシェワは、世界選手権のロシア代表を惜しくもエフゲニア・メドベージェワに譲る形になった。
その悔しさをぶつけるようなトゥクタミシェワの滑り。
ショートではトリプルアクセルを完璧に着氷するなど、会心の演技で紀平梨花に次ぐ80.54点をマークする。
フリーでもトリプルアクセルを決めトップの得点を叩き出し、ロシアの銅メダル獲得に大きく貢献した。
今大会の彼女はノーミスの素晴らしい滑りを披露し、日本のファンに強烈なインパクトを残したに違いない。

5.ヴィンセント・ジョウ

今大会の陰のMVPともいえる活躍をしたのが、アメリカの18歳ヴィンセント・ジョウである。
先の世界選手権でも、この若者の滑りに注目せざるを得なかった伸び盛りのフィギュアスケーターなのだ。
そんなジョウは、世界選手権から僅か数週間で飛躍的な成長を遂げていた。
ショートでは、自身初となる100点超えを果たし、ネイサン・チェンに次ぐ2位となる。

そして、今大会で最も驚かされたのが、彼のフリーにおけるパフォーマンスだった。
冒頭から、現在跳ばれているジャンプの中で最も難易度の高い4回転ルッツを、両手をあげて跳ぶタノジャンプで完璧に決める。
この難しい跳び方で4回転ルッツを成功できるのは、彼しか存在しない。
その後も滑らかなスケーティングに加え、抜群の安定感でジャンプを着氷していく。
これまでのパーソナルベストを10点以上も更新し、200点に迫る圧巻の演技を披露したのだ。
ジャンプ等の得点をジャッジする技術点では、首位ネイサン・チェンを5点以上も上回っていた。
いくらチェンが、ジャンプの構成の難易度を落としていたとはいえ、これは驚異的といえるだろう。
来期以降、ネイサン・チェンや羽生結弦らが展開する優勝争いに食い込んでいくに違いない。

6.ネイサン・チェン

ネイサン・チェンの今大会の演技は、世界選手権に比べると若干抑え気味であった。
世界選手権終了後、そのまま日本に滞在し全国各地のアイスショーに出演したか思うと、学業のため一端アメリカに戻り、再び来日するというハードスケジュールをこなす。
しかも、日本に着いたのが大会前日ということからも、チェンの多忙ぶりが窺える。
こうしたことが影響し、万全の調子ではなかったのである。
しかし、4回転ジャンプの構成こそ難易度を落としたものの、その流れるような滑らかなスケーティングは健在であった。
ショート・フリーの両種目でトップを獲得し、アメリカ優勝の原動力となる。

フィギュアスケート競技の素人である私は、ネイサン・チェンの演技を見るにつけ、どうしても4回転ジャンプに目がいきがちであった。
だが、ジャンプの難易度が落ちたことにより、彼のスケーティング技術の素晴らしさを改めて認識することができた。
足先や指先にまで神経が行き届いた滑り。アップテンポな曲の特徴を掴むリズム感の素晴らしさや、それに合わせたダイナミックで素早い身のこなし。
幼い頃からバレエを習っていたことも、身体表現の巧みさにつながっているのだろう。

2018年に開催された平昌オリンピックのフリースケーティングは、4回転ジャンプを次々と決める歴史に残る名演技であった。
しかし、チェンの練習風景を観戦した経験を持つある人物は「5つの4回転ジャンプを着氷したチェンのフリーは、たしかに素晴らしかった。だが、スケーティング自体は4回転ジャンプを跳ぶための繋ぎとしか見えなかった。本来の彼は、4回転ジャンプもさることながら、思わず見入ってしまうスケーティングの素晴らしさが特徴なのだ」と語る。
まさに、この言葉を体現するネイサン・チェンの芸術的な滑り。
そのことを知り、さらにネイサン・チェンという稀代のフィギュアスケーターに魅了されるのであった。

まとめ

国を背負って戦う誇りと責任感により、個人戦以上のパフォーマンスを見せる選手たちの頑張りが大会を盛り上げた。
そして、代表選手たち全員が一致団結し、滑走する選手を応援する姿。
演技を終えたスケーターへの、キス&クライで迎えるチームメイトたちの温かい労い。
こうした様子が、画面越しに伝わってきたのである。
私は、個人戦の孤独な戦いとは異なる、団体戦特有のアットホームな雰囲気をすっかり気に入ってしまった。
また、会おう!2年後に。

 

スポーツ好きが集まる婚活イベントはこちら!