去る3月20日、さいたまスーパーアリーナで開幕したISU世界フィギュアスケート選手権。
男子は宇野昌磨や羽生結弦ら日本人選手に加え、ディフェンディングチャンピオンで“史上最強の4回転ジャンパー”ネイサン・チェンも参加する目の離せない熱戦が繰り広げられた。
しかし、女子シングルも、それに勝るとも劣らない心に残る戦いとなる。
日本から代表に選ばれた紀平梨花、坂本花織、宮原知子はいずれも表彰台を狙える実力者であり、特に、紀平梨花にはグランプリファイナルに続く世界大会制覇の期待が集まる。
そんな中、ついに開幕初日から女子シングルの華麗なる舞いが始まった。

ロシア代表選考

ロシア代表は、オリンピックチャンピオンのザギトワと欧州選手権優勝のサモドゥロワに続くあと1枠を巡り、ロシア国内でも物議を醸す選考となる。
今シーズンの実績でいえば、GPシリーズ・カナダ大会でも優勝するなど終始安定した成績を残していたトゥクタミシェワが有力であった。
ところが、オリンピック後に調子を落としていたエフゲニア・メドベージェワがロシアカップで優勝し、代表争いは俄然混沌とする。

ロシア国内でも論争が巻き起こる中、代表に選ばれたのはメドベージェワであった。
客観的に見れば、トゥクタミシェワが選ばれるべきだったように思う。
かつて世界女王に輝いた彼女も、ここ数年は若手の台頭などもあり、思うような成績を残せなくなる。
ところが、21歳という年齢にもかかわらず、今季、不死鳥のように復活したのだ。
そんな彼女に、世界選手権という檜舞台に立って欲しいと思うのが人情であろう。

だが、私が今大会を平昌オリンピックの時のように心待ちにしていたのは、メドベージェワの出場が決まったからである。
上記日本人選手のほかに、オリンピックで金銀を分け合ったザギトワとメドベージェワも名を連ねるという超豪華メンバー。まさに役者が揃ったという感がある。
否が応でも、期待に胸が膨らむのであった。

ショートプログラム

宮原知子は、冒頭のコンビネーションジャンプで回転不足を取られるなど8位と出遅れる。
それとは対照的に、坂本花織は会心の演技で自己ベストを更新し、2位と順調な滑り出しをみせた。
四大陸選手権においてショートで首位発進するも、フリーでは得点を意識し過ぎるあまり己との戦いに敗れた坂本。今大会に期するものがあったに違いない。

そして、私が注目する3人の選手たち。
そのトップバッターとしてリンクに降り立ったのが、エフゲニア・メドベージェワである。
彼女も宮原同様、冒頭のコンビネーションジャンプで回転不足となる。
しかし、それ以外はノーミスで滑り切り4位につけた。
メドベージェワはオリンピック終了後、練習拠点をカナダに移しブライアン・オーサーのもと、自らの滑りを一から見直すことを決意する。
その影響もあってか、これまで見たことのないようなミスが頻発する。
絶対女王と呼ばれたメドベージェワのプログラムが、見るも無残な姿で崩壊したのである。
だが、今季最終戦のショートプログラムで、久々に彼女らしい滑りを見ることができた。
気迫溢れる表情でリンクを滑走する姿に、観客からも惜しみない拍手が送られる。
私も彼女の苦しかったシーズンに思いを巡らせ、「よくぞ、ここまで戻ってきた…」と心の中で拍手喝采を送った。

一方、その直後に登場した紀平梨花は、いきなりトリプルアクセルがシングルになってしまい、本来高得点を期待できるジャンプが0点になるという悪夢のスタートになってしまう。
だが、そこから崩れないのが、彼女の凄いところである。
その後の演技を無難にまとめ、7位でショートを終える。
彼女の実力からすれば十分表彰台を狙える位置だが、さすがに首位とは11点以上の差がつき、
優勝はかなり難しくなってしまった。
これは、私見だが、直前のメドベージェワの滑りに微妙にプレッシャーを受けたのかもしれない。あれだけ会場が盛り上がると、直後の選手は滑りづらいからである。

そして、最後にアリーナ・ザギトワが登場する。
素晴らしい演技だった。
完全にオリンピックの頃の滑りを取り戻したようだ。
いや、その表現力は一層磨きがかかったのではないだろうか。
ザギトワは高難度のコンビネーションジャンプを完璧なまでに決めると、続くジャンプも次々と着氷していく。
演技が終わり、感極まった表情で涙をこらえるザギトワ。
五輪後に身長が7㎝も伸びたことによりジャンプが安定せず、彼女もまた厳しいシーズンを送っていた。
これまで彼女がその表情で顔を歪ませるときは、決まって、ジャンプを失敗し納得できない演技をした後だった。
会心の滑りを終えたザギトワの表情に、16歳の若さで頂点を極め追われる身になった少女の孤独を思わずにはいられなかった。
演技が終わり、インタビューに答えるザギトワ。
「今日の演技は満足してます。日本のファンが後押ししてくれました。日本のファンはいつも温かく応援してくれるので、本当にうれしい」
こうして、ザキトワが自己ベストの82.08点をマークし、2位に5点以上の差をつけ首位に立った。

フリースケーティング

ショートで不本意な出来だった宮原は、後半の3連続ジャンプで手をついてしまうが、それ以外は自分の持てる全てを発揮できたのではないだろうか。
紀平梨花は、冒頭でトリプルアクセルからのトリプルトゥループという女子史上最高難度のコンビネーションジャンプを完璧に決める。
しかし、直後のトリプルアクセルで転倒してしまったのが、他の演技でミスが無かっただけに返す返すも残念であった。
結局、フリーではザギトワに次ぐ得点をあげたものの、惜しくも表彰台ならずの4位で終わる。

最終組で滑走し熾烈なメダル争いを繰り広げた4名の選手を、私は心から讃えたいと思う。
まずは、最終滑走者のトゥルシンバエワである。
女子では世界選手権史上初となる4回転ジャンプを決めたのだ。
ショートを3位につけ、メダル圏内での果敢な挑戦が実り、見事銀メダルに輝いた。
歴史的瞬間を観ることができ、素直に感謝の言葉を述べたい。

とても残念だったのが坂本花織である。
これまでにない気迫漲る精悍な表情でリンクに降りる彼女の姿に、この大会に賭ける気持ちが伝わってくる。
これまでの彼女の滑りの中でも、一番感動した圧巻の演技であった。
だが…演技後半のトリプルジャンプがシングルになる痛恨のミス。
あれがなければ、間違いなく2位になっていただろう。
あるいは、直後で滑るザギトワにプレッシャーがかかり、金メダルの行方も分からなかったかもしれない。
5位という成績に終わったが、表彰台と紙一重だった坂本花織の捲土重来に期待したい。

3人目はエフゲニア・メドベージェワである。
1回だけジャンプでバランスを崩す場面があったが、あと僅かで150点に届くかという149.57点をマークし、銅メダルを獲得した。
演技を終えた瞬間、ガッツポーズを取りながら雄叫びをあげるメドベージェワ。
「200%努力してきた」と語るメドベージェワの魂の叫びだったに違いない。
辛酸を舐め尽くした今シーズンの最後に、復活の狼煙を上げた素晴らしい滑り。
国際大会という晴れの舞台には、かつての“絶対女王”エフゲニア・メドベージェワが居なくては、やはり物足りない。
新体制のもと、自らの滑りを再構築している途中段階であり、彼女の演技はまだまだ良くなるはずである。
頑張れ!ジーニャ!

そして、アリーナ・ザギトワである。
今季はフリーで崩れるシーンが目立っていたが、今大会の彼女なら美しい滑りをしてくれると期待していた。
文句のつけようのない期待以上の滑りであった。
「大好きな日本に感謝を伝えるためベストな演技を届けたい」というコメントに違わぬ渾身の演技を披露するザギトワ。
私が感動したのは、演技後半に組み込んだトリプルルッツ+トリプルループの超高難度コンビネーションジャンプを着氷した場面である。
2本目のトリプルループでやや態勢を崩しそうになるも、何とか堪え流れを止めず見事にスケーティングに繋げる。
このザギトワの必死な姿に、彼女もひとかたならぬ思いを抱いて今大会に臨んでいるのだと感じた。

ミスなく滑り切ったザギトワがフィニッシュのポーズをとると同時に、カルメンの曲が鳴りやむリンク。
すると、ショートプログラム終了後と同様に感極まった美しい顔を両手で抑え、堪え切れず涙を流すザギトワ。
美しいシーンだった。
会場にいる全ての観客が、この16歳の少女を祝福していた。
オリンピックチャンピオンの重圧がのしかかり、成長期特有の体形の変化にも悩まされたこの1年。
目の前に聳える大きな壁を乗り越え、唯一手にしていなかった世界選手権の金メダルを首にかけるザギトワが、真の女王となった瞬間であった。

まとめ

実に素晴らしい戦いだった。
これほどまでに心を打つ試合は、昨年の平昌オリンピック以来だったように思う。
どの選手も全力を尽くし、これまで培ってきたものを出し切ったのではないだろうか。
たった1つのミスが命取りになる、そんな緊迫した空気が張りつめる氷上の美しき戦い。
そして、これまでのフィギュアスケート人生において、今シーズンほど苦しんだことが無かった新旧女王のふたり。
今回の世界選手権は、フィギュアスケート大国が誇る“ロシアの至宝”アリーナ・ザギトワとエフゲニア・メドベージェワの大会だと感じた。
日本を心から愛して止まない10代の女王たち。
その復活の物語を観ることができた喜びを噛みしめながら私は祈る。
前途あるふたりの未来に幸あらんことを。

 

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