「それゆけ!アンパンマン」は、こどもたちのヒーロー。
漫画家・やなせたかし先生の代表作にして国民的人気アニメなのは誰もが知るところでしょう。
愛らしく、個性豊かなキャラクターたちが動くと、大人もつい見てしまう魅力があります。

アンパンマンは本当に愛と勇気だけが友達なのか

幼稚園の頃、先生が絵本の読み聞かせで「アンパンマン」を読んでくれたことがあります。
やなせたかし先生の絵は、アニメとはまた違う味わいがあっていいですね~。
お腹が空いている動物の子どもに「僕の顔を食べなよ!」とちぎって差し出し、胴体だけでパン工場に戻っていったシーンをよく覚えています。
アンパンマンの顔、ふわふわしていて、甘くて、美味しいんだろうなぁ。(ちょっと怖いけど)

「アンパンマン 優しい君は いけ!みんなの夢守るため」
主題歌「アンパンマンのマーチ」で軽快に歌われている内容からも、彼がみんなの平和を守るヒーローだとわかります。
みんなの夢を守る!アンパンマンも、なかなか大変な使命を与えられていますね。

悪さをするのは、「バイバイキーン♪」のセリフでお馴染みのバイキンマンと、その彼女(?)ドキンちゃん。
何かにつけて誰かを困らせたり、邪魔をして悪事を楽しむ悪者です。
自前の研究所や個人用飛行機を駆使して、ハイテクなバイキンマンたちを懲らしめるのは簡単ではありません。

でも、アンパンマンにはたくさんの頼もしい仲間たちがいるのです。
それなのに何故
「愛と勇気だけが友達さ」
と歌われているのか?
一度は誰しも疑問に感じられるのではないでしょうか。
仲間、いっぱいいるじゃん!

カレーパンやメロンパンは何故食べさせないのか

アンパンマンの仲間といえば、辛~いカレーを口から出して攻撃するカレーパンマン、色白で眉目秀麗の食パンマン。
女の子もいます。空中を飛びながら強烈なメロメロパンチを繰り出すメロンパンナちゃん。
着物を纏い、帯剣している天丼マンなどなど……こどもたちが大好きなヒーローたちは、みんな美味しそう。

子供ながらに不思議に思っていました。
「アンパンマンは自分の顔を食べさせてあげるのに、他のキャラクターたちはどうして食べさせないの?」
選べるなら、私はクリームパンを食べたい。
作中では、カレーパンマンが大きなお鍋に口からカレーを出して、カレーライスを振る舞うシーンがあるようです。
うーん、カレーライスは好きなんだけど、それはちょっと遠慮しておきたい。
食パンマンは、自分の顔ではないけれど、食パンを運んで振る舞うシーンがあるんだとか。
天丼マンは中身を食べられてしまうなど、やはり皆さん、美味しく食べられることには間違いないようです。
インターネットの「知恵袋」では、アンパンマンが顔を食べさせるという自己犠牲を際立たせる為のプロデュースだとまとめられていました。

ジャムおじさんがいないとヒーローは活躍できない

大人の都合でアンパンマンだけが自身の身を削ることになっていますが、子供心を持っていたい私としては、もう少し踏み込んで、勝手ながら細かい解釈をしてみたいところ。

そもそもアンパンマンの生い立ちは、こうです。
「生きているパンを作りたい!」と試行錯誤していたジャムおじさんが、今回は良い出来だとパンを焼いていた夜。
夜空には幾千の流れ星が降ってきて、その中の一つ、命の星がパン工場の煙突から釜に入ります。
釜戸を開けると、赤ちゃんのアンパンマンが生まれました。

ジャムおじさんのパン工場では、普段は一般のパンを作って販売し、生計を立てているはず。
アンパンマンは頭を新しくすれば元気になるので、必要な時にだけ新しい顔を作ると考えられます。
ジャムおじさんのパン工場ではアンパンマンしか作っていないようなので、他のキャラクターたちは、お家が別にあるのでしょう。
もしかすると、そこでは、頭を新しく焼いて交換するというシステムが手薄か、またはお家がパン工場ではないのかもしれません。
そうなると、自分の顔を他人に分け与えることが出来るのも、ジャムおじさんのバックアップがしっかりしているアンパンマンならではの特権だとも考えられます。

アンパンマンになりたかった私

大学に在籍中、校内に献血の出張車が来ていました。
授業の合間に時間があり、そこで人生初の献血をすることになりました。
献血といえば、キャッチフレーズが「二十歳の献血」「愛の献血」など。

その時、ふと思い出したのが、「アンパンマンのマーチ」でした。
愛と勇気が無いと、献血は出来ないなぁ。
血液を必要としている誰かのために、健康な人が血を分けます。
「僕、注射の針が怖くて献血は無理だ」と言っていた知人がいますが、そりゃ、採血もするし献血の針はそこそこ太い。
全く痛みが無いというわけでは無いので、ちょっとした勇気もいるかもしれません。
見知らぬ誰かへの愛と、血を取る痛みへの勇気。

その後も度々、自宅の近くで献血をするようになりました。
その時は卒業後もフリーターとして目的なくただ生きている自分に負い目と嫌気を感じ、せめてこんな自分でも社会貢献が出来るなら、という罪悪感からでした。
若くて健康な血液を提供し、感謝され、お菓子と飲み物も頂けて、とてもいい気分です。

アンパンマンが顔を分けて、また新しい顔に交換するように。
私の血液も誰かに分けて、次から次へと体内で新しく作られる。
大した仕事も出来ないし、社会の役に立てないから、せめて何かで人の役に立ちたかったのです。
献血なら、自分の中の愛と勇気だけを味方にすれば、誰かの役に立てる。
あの歌詞は、こういう意味だったのかもしれない。
アンパンマンも、自分の顔をちぎる時は痛かったのかな?

もし、ジャムおじさんが拒否したら

ジャムおじさんこそ、アンパンマンの生みの親であり、新しい顔を作り続ける影のヒーローです。
もしも、ジャムおじさんが
「アンパンマンや。経費削減で、もう顔は新しく作れないよ」
なんて言いだしたら、アンパンマンは今まで通りに人助けを続けられなくなります。

それは私たちも同じこと。
人の体が血液を作り出せなくなると、他人に提供出来ないどころか、自身の生命の危険です。
それが、白血病の原因である骨髄異常です。

以前、私の職場の仲間が急性白血病で亡くなった話をコラムに書きました。
私は骨髄バンクにドナー登録したら、なんとわずか1ヶ月半で適合し、ドナー候補に。
しかし、親族の同意がなかなか得られず、説得に時間がかかっているうちに、患者さんの都合で話が流れてしまいました。
他のドナーが見つかったのか?
他の治療法に切り替えたのか?
考えたくはないけど、もしかして、その患者さんは亡くなってしまったのか?

非血縁者で白血球の型が一致する確率は数万分の一と言われています。
なんだか、運命の相手が見つかったみたいで素敵!
そんな相手を、私が助けられるかもしない。
「適合」ということ自体がとても嬉しかったし、そんな特別な誰かのために、私はアンパンマンになりたかった。

こし餡とつぶ餡、どっちがお好み?

アンパンマンの中のあんこは、こし餡とつぶ餡、どっちなんだろう?
つぶ餡が苦手という人は、小豆の粒とか皮とかが入っているのが苦手だそうで、頑なにこし餡しか食べない。
和菓子大好きな私は、どっちも好きです。
それぞれの良さがありますからね!

私が家族を説得出来なかったのは、家族がこし餡派のように、頑なにつぶ餡を拒んだからです。

骨髄移植は全身麻酔をかけて、腸骨に針を刺して骨髄液を採取します。
これを誤解して、「麻酔なしで脊髄に針を刺す。もの凄く痛くて後遺症が残りやすい!」と思い込んでいる方が多いようです。
私の家族がまさにそうでした。
母は出産の帝王切開で麻酔を注射した時の痛み、兄は癌に侵された時の検査で骨髄液を採取して気分が悪くなったという経験で、「骨髄」という言葉にアレルギー反応があるようでした。

実際には、骨髄バンクを通しての骨髄移植では、過去の死亡例は0件。
よほど持病の腰痛があったり、高齢での骨髄提供でなければ、提供後の痛みも後遺症もほとんどありません。

そして、腸骨の骨髄に針を刺す以外の採取方法もあるのです。
成分献血のように腕から採取し、骨髄提供に必要な「造血肝細胞」を必要な分だけ取り出し、残りの血液は反対側の腕からドナーのからだに返していくという方法です。
骨髄からの採取が心配であれば、こちらの方法にすれば良いのです。
こし餡とつぶ餡のように、それぞれに良さがあり、採取方法は医師と相談して選ぶことが出来ます。

骨髄提供は、決して成功率の低い、危険な手術ではありません。
とはいえ、手術である以上は本人の意思だけで出来るものではなく、近しい親族の同意が必要です。
それは車で出かけて、交通事故に遭わない確率が0%とは言い切れないように、料理をしていて包丁で手を絶対に切らないと言い切れないように、手術である以上、からだへの負担が絶対に何も無いとは言い切れないからです。
ここでも、誰かを助けるための愛と勇気が無ければ実現しないものだと痛感します。

「それでも、あなたのからだと将来が心配なの」
母と兄が言い続ける「心配」は、「骨髄に触れること」から来ていたようです。
そこは心配ないと一生懸命説明しましたが、説得する前に、私の骨髄提供は終了しました。

医師で、かつて骨髄採取の手術にも関わっていた知人に話すと
「骨髄提供に関わっていた医師としては、凄く嬉しいし有り難い。でも、俺の家族がドナーになるとなったら、やっぱり同意はすぐには出来ないと思う。全身麻酔をかけるからこそ心配してしまう面もあるし」
現場を知る方でも、家族が当事者となった場合には個人的な感情として「心配」が優先してしまうのです。
知識の少ない一般人では、なかなか同意が得られないのは仕方のないことかもしれません。

アンパンマンの活動期限

競泳の池江璃花子選手が白血病を公表してから、骨髄バンクへの登録者数が急増したそうです。
適合者も見つかりやすくなったのに、せっかく適合してもドナーとして骨髄提供に至る人は少ないとか。
仕事の都合がつかなかったり、家族の同意が得られないといった理由がほとんどだそうで、
「実際に提供出来ないのであれば、登録しないで」
という意見も出てしまうほど。
何とも、耳の痛い話です。

適合者が提供を辞退することほど、患者さんを落胆させることはありません。
完治という夢を見させて突き落とすような残酷なことをしたくなければ、よく考えて登録することです。

ドナーには、年齢が55歳未満という提供期限があります。
55歳と言えば、まだまだ働き盛り!
だからこそ、ドナー候補者になっても実際に提供出来なかった理由の第一位が「仕事の都合」(43%)なのかもしれません。
二位の「家族の反対」は21%、三位「家庭の都合」は15%だそうです。
自分の長い人生の時間、数日間を、誰かのために使うことは、そんなに難しいことなのでしょうか。
会社や同僚が、それをバックアップしてほしい。

私が家族から言われて悲しかったのは「見ず知らずの人のために、どうしてそこまで」という言葉でした。
誰かを助けたいという願いが、叶えられないことがあっていいのでしょうか?
誰かを助けたい気持ちは、きっと誰もが持っています。
その気持ちを後押しする気持ちも、多くの人に持っていてもらえたら。

どうか、どうか、あなたの周りでドナー候補者になった人がいたら、お願いです、同意してあげてください。
今のこの一分一秒も、適合者を待っている患者さんがいて、生きたいと願いながら苦しんでいます。
時ははやく過ぎ、光る星は消えていきます。

 

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