2011年公開。
首から下がまったく動かせない大富豪と、スラム街出身の介添人との友情を描く、実話を元にしたハートフル・コメディです。
フランス本国および日本で公開されたフランス映画の中で、歴代トップの観客動員数を打ち出す大ヒットになりました。
今年12月にハリウッドリメイク版が公開されます。
あらすじ
事故により頭以外が麻痺で動かせなくなった大富豪・フィリップの豪邸に、彼の介添人を志望する者たちが面接を受けに来た。
スラム街に住むドリスもその一人だが、彼だけは事情が違った。
面接を受ける者たちの志望動機はそれぞれだが、一様に障がい者に対して同情と気遣いを持っていることを前面に出してくる。
フィリップはどの志望者にも興味が湧かなかった。
ずいぶん長く廊下で待たされていたドリスは、順番を押しのけて面接室に入った。
そして1枚の紙を、フィリップの代わりに面接官をしている秘書のマガリーに差し出し「サインをしてくれ」と頼んだ。
その用紙は職業安定所に提出するもので、“就職活動に前向きである”という証明になるものだった。
面接を受けた場所3つからサインをもらえば失業手当がもらえる。
ドリスの目的はそれだった。彼は就職する気などサラサラなかったのだ。
この粗野な態度に興味を持ったフィリップは、ドリスにいろいろ質問をしてみる。
音楽の趣味や生活環境まで、まったく自分と真逆である。
自分に対して同情心を持っておらず、皮肉まで言ってのけるところが気に入った。
フィリップは、サインは書いておくから翌朝また来るように、と伝える。
数多い弟妹たちがひしめき合う狭いアパートに、ドリスは半年ぶりに帰ってきた。
賑やかだが相変わらず手がかかり、風呂もゆっくり入れない。
夜遅く、弟妹たちが眠ったあと、仕事を終えた母親の帰りをドリスは待っていた。
フィリップの家から盗んできた卵型の置物をお土産に渡すが、母の態度はそっけない。
それどころか母は怒っていた。
半年間も家を不在にし、ろくに働きもしない。
ついに母は泣きながら、ドリスに荷物をまとめて出ていくように叫んだ。
言う通りにしたドリスは一晩さまよい歩き、朝になって約束通りフィリップの家に行く。
用紙だけ受け取りに来たはずなのだが、1ヵ月だけ試用期間としてやってみないか、とフィリップに誘われた。
気乗りしないが、「まあ2週間も持たないだろうが」とフィリップに煽られて、逆にやってやろうという気になる。
仕事の説明をされても途中で寝落ちしたり、大雑把で雑な介助ばかりしているが、ドリスの細かいことを気にしない性格は、フィリップだけではなく周りの使用人や秘書たちも笑顔にさせた。
ある夜、常に持っているインカムからフィリップの苦しそうな呼吸が聞こえてくる。
ドリスはすぐにフィリップの寝室に向かい、汗をかいて口もきけないほど苦悶するフィリップを落ち着いて介護する。
新鮮な空気が必要と考えたドリスは、フィリップを車いすに乗せて、深夜の街を一緒に徘徊する。
無遠慮でいい
フィリップのところで働きたい面接受験者の人たちは、一生懸命に介護の経歴を述べたり、“障がい者に対して優しい自分”をアピールします。
面接なのでそれが当たり前だと思いますが、当事者であるフィリップにしてみれば、面白くないんですね。
同情する気持ちは見下している気持ちでもありますから、フィリップは彼らに厳しい目を向けます。
しかしドリスは、フィリップに同情の気持ちなどサラサラなく容赦がありません。
言いたいことを言うし、訊きにくいこともズバズバ訊きます。
この遠慮のなさが、フィリップを障がい者ではなく、ひとりの対等な人間として見ている証明で、それが心地いいんですね。
本来ですと、フィリップは障がい者以前に自分の雇用主なわけだから、普通は失礼な態度を取りにくいものなのですが、ドリスはそんなことは気にしません。
そのため最初は“無神経な人”と、マガリーやもうひとりの秘書イヴォンヌらにも思われるのですが、悪意がなく陽気で面倒見もいいドリスは、結局ほかのみんなとも、なんでも話せる友人になるのです。
遠慮ばかりして人と距離を取るより、多少失礼でも相手の懐に飛び込むくらい他者との垣根がないほうが好かれるし友人も多いです。
根底には本当に相手を心配する優しさや、大変な時に助ける面倒見の良さがあるから不快な感じがしないんですよね。
ただ、遠慮のない物言いは、人間関係では軋轢を生む難しさがあります。
自分はサバサバした性格だから、とエクスキューズをして人を傷つけることを平気でズケズケ言う人がいます。
ドリスのように温かみがあるなら許せるのですが…
大抵は、他人にキツく当たってマウントを取っている人なんですよね(;´・ω・)
こういう人は論外です。
ポエムはいらない
フィリップには、半年前から文通をしている女性がいます。
当然体は動かないからマガリーに口述筆記してもらっているのですが、具体的なことを何一つ言わず、自分の恋心的なものを詩的に表現しているのです。
一方マガリーに気があるドリスは、連絡先を聞いたり、彼女を浴室に案内して「一緒に入ろう♪」と誘ったり、愛情表現がストレートです。
ナンパ下手すぎかよ!とも思いますが(;^ω^)
そんなドリスだから、フィリップの遠回しで一向に進展するべくもない恋愛ごっこに喝を入れます。
ちょうど相手の女性・エレノアから前回きた手紙には彼女の電話番号が載っていたので、ドリスは躊躇なく電話をかけてフィリップに無理やり喋らせます。
そこからデートの約束を取り付けました。
荒療治ですが、足踏み状態だったフィリップの恋愛を前進させるには、ポエムよりストレートなお誘いのほうだとドリスにはわかっていたんですよね。(まあ誰でも気づくけど)
平安時代は歌を贈っていたそうですが…
現代ではポエムは必要ありません。
それより自分の気持ちはストレートに打ち明けて、さっさとデートに誘ってしまってください。
ちなみにフィリップは障がい者であることを彼女に打ち明けられず、それで臆病になっていました。
恋愛に臆病になることはよくあります。
誰だって何かしらコンプレックスを持っているものだし、それを受け入れてもらえるか怖いものです。
でもポエムばっかり贈っていつまでも進展しないでいるなんて、時間がもったいないですよね。
勇気を出せば道は開けます。
まとめ
最初の見出しでも書いたように、障がい者との向き合い方に同情はいらない、と教えられる作品です。
その人が自力でできないことを助けはしても、対等な人間として扱う。
難しく思えますがドリスは軽々とやってのけます。
気に入らないことを言われれば、チョコレートをくれ、と言われても「健常者用だ」と突っぱねるイジワルもするし、車いすのまま後ろで固定されて移動できるバンを見て「あんたを馬あつかいできるか」と言って、カバーがかかっていたマセラティの助手席に乗せてドライブに連れ出すこともします。
まったく上下関係がなく、友達として普通の接し方をしているんですね。
皮肉を言い合うこともあれば、体を心配したり、友達として恋愛も応援します。
そういう関係を築いている過程が、観ていてとても心地よくて楽しい。
ストーリーも良ければ、俳優たちの演技も素晴らしくて魅力的です。
この作品が多くの人に愛されているのが良く分かります。
それから原題は「intouchables(不可解民たち)」といって、おそらく「社会ののけ者たち」という意味なのですが、これを「最強のふたり」という邦題にしたセンスがすごくいいと思いました。
翻訳者の方なのか配給会社の方がつけたのか分かりませんが、この作品をよく理解していて前向きなタイトル。
全部が素晴らしい作品に日本版の公式がまたさらに魅力を付け加えてくれたな、という感じです。