明日海りおの東京宝塚劇場公演が、幕を開けた。これは、退団までのカウントダウンが始まったことも意味する。

彼女のいない花組を、私はまだ、想像できずにいる。しかし、来年からスタートする、新生花組について、少しだけ想像を巡らせてみようと思う。

新トップスターは柚香光

まずは、明日海りおからトップを引き継ぐ、柚香光について。
彼女の魅力は、やはり他のジェンヌとは一線を引く、ビジュアルの高さ。スタイルが良いのはもちろん、はっきりした目鼻立ち、ファッションセンスも良く、そこに目をつけた『JOSEPH』は、彼女をモデルに、広告やホームページのムービーに起用している。

出待ちをした時のこと。舞台を降りた彼女は、シンプルな白シャツ×スラックスのスタイルで、劇場から姿を見せた。ジェンヌの中には、柄物を好む人も多くいる中、シンプルなスタイルを、あれほどまでバランス良く着こなせてしまうのは、ある意味凄いと感じるし、自分の見せ方をよく理解している証拠でもある。

舞台人としての彼女は、少し厳しいことを言ってしまうが、演技と歌にはまだまだ“力み”残る。
今後、花組のセンターとして組を背負い、全ての公演で真ん中に立つこととなるわけだが、今までの2番手という立場にはない、圧倒的な重圧やプレッシャー。それを、良い意味で自分の糧とし、成長していく花組トップとしての柚香光の今後に、期待したい。

演技で魅せるトップ娘役華優希

「華ちゃんの演技には、心を動かされる。だから素直に演じられるのです」
明日海りおからその高い演技力を認められている、華優希。前トップ娘役、仙名彩世からバトンを引き継いだ彼女。歌、ダンス、演技の3拍子揃った仙名彩世の後任ともなれば、とてつもないプレッシャーであったことだろう。ましてや、明日海りおの相手役ともなれば、なおさらである。

そんな中、舞台で魅せる彼女の演技は、相手役の明日海りおの心だけでなく、観劇した私の心も大きく動かした。無邪気な子供時代から、夫に裏ぎられ、ひどい仕打ちを受ける大人時代、そして、老年まで。彼女は全てを見事に演じ分け、観客の涙を誘った。

通常、子供時代や老年時代は、演者を変え演出することもある中、彼女は1人で全ての役を全う。これも、演出家が「彼女ならできる」と思ったからこその選択なのだろう。

歌はまだ伸び代がある印象ではあるが、彼女の演技力と、真っ直ぐで素直な人間性を、舞台上で今後もっと魅せて欲しいと感じる。それにしても、明日海りおとのコンビ、もっともっと観たかった…。今からでも退団を取り消して欲しい、と思うが、それは無理か…。新トップコンビに、期待。

THE男役!2番手スター瀬戸かずや

着実に努力と経験を積みかさねてきた、瀬戸かずや。明日海りおの退団後、2番手男役として、今後花組を引っ張っていく重要な存在となる。瀬戸かずやが舞台に現れると、不思議と安心できるのは、果たしてなぜなのだろう。

今回の舞台、フェアリーテイルで演じるのは、父親の会社を受け継ぐ、いわばボンボン役。商売とお金に貪欲な、やり手社長である。固定概念に縛られるがゆえ、イケイケどんどん的な雰囲気に、「ちょっとお待ちよ。お金だけじゃないよ、人生は」と、観ているこちら側は言いたくなる。がしかし、本気でそう言いたくなってしまうほど、融通の効かなそうな社長役を演じていた。

男役ならではの力強さはもちろん、ツッコミどころのある役まで見事に演じる彼女。それでいて、優しい雰囲気をも身に纏っている。個人的に、『友達になりたいジェンヌNo. 1』だなと思うのは、演技に対しても、男役に対しても、共に切磋琢磨する組子たちに対しても、大きな愛情と真っ直ぐな気持ちを持ち、誠実に関わっているからなのだろう。

花組を支える若手男役の存在

花組には、魅力的な男役がたくさん揃っている。
特に近頃、素敵だなと感じるのは、飛龍つかさである。98期生とあり、まだ若手の枠に入るのかもしれないが、安定感のある歌唱力は、今後の花組に、絶対的必要不可欠な存在とますますなって行くに違いない。

彼女の一番の魅力は、滲み出る人間らしさではないか。競争率の激しい宝塚は、周り全てがライバルと言っても過言ではない。今はすでに退団されているが、元花組男役、亜蓮冬馬が怪我で舞台を休演した時。舞台挨拶で目に涙をいっぱいに溜めた飛龍つかさは、きっと、休演する仲間が抱く悔しさや辛さを、人ごとではなく、自分ごととして捉えていたのだろう。その優しさ、想像力含め、彼女はこれからもっと、舞台で大きく羽ばたき輝くに違いない。

花組に留まらず、宝塚全体にとって、彼女のような素敵な人間が、長く残って欲しいと願うと同時に、素敵な役に巡り合って欲しいと、飛龍つかさにに思う。

独特な中性的雰囲気を放つ、聖乃あすかも忘れてならない。彼女は舞台のどこにいても、なぜかすぐに見つけてしまうような、気になる存在。美しい顔立ちがそうさせるのか、それとも何なのか…。やや鼻にかかる声は、少し聞き辛さを感じることも正直ある。しかし、あの独特な声は、彼女の武器でも。

今回のフェアリーテイルでもまた、新人公演主演をつとめた。おそらくこのまま行けば、彼女はきっと、花組ではなかっとしても、必ずやトップ男役になるのでは、と期待しているのだが…。何が起こるかわからない宝塚。あまり大きな期待を抱きすぎないよう、注意したい…(トップになって欲しいという希望は、抱かせていただくけれども)。

すでにある品の中に、少し男臭いくらいの男らしさが混ざっても面白いのかな、とも感じる。今後の聖乃あすか、悪役などにも挑戦した、いくつもの顔を見てみたい。

独特な存在感を放つ羽立光来

つい明日海りおばかり観てしまうのだが、今回、あまりに印象に残るジェンヌがいた。それが、羽立光来だ。

演じる役は、華優希演じるシャーロットの夫役、ギルバード・カーライフ。ギルバートは、シャーロットに愛があるから求婚したわけでなく、彼女の持っている地位が欲しいがため、そのためだけに結婚を申し出たという、まあ、女の敵ってやつ。

結婚後、家には取っ替え引っ替え女を招き入れ、シャーロットには暴力まで振るう有様。しまいには「お前は俺の金で生活しているんだぞ!文句を言うな!」的な台詞まで吐くという、本当に、クズでしかねえ。

しかし、あまりにはまり役というのか、この役をまるで楽しんでしまっているかのよう演じる羽立光来には、もはや一周回って、清々しく感じた。「こんな素敵な演技派が花組にいたことを、私は今まで知らなかったのか…」と、恥ずかしくもなった。

悪役というものは、振り切ってからが、面白い。彼女はまさに、ギルバートそのものの中に入り、ひどく救いようのない男に成り切っていた。

彼女には今後、願わくば、愛月ひかるさんのような配役をお願いしたい…!エリザベートであればルキーニを。再演があるかどうかはわからないけれど、神々の土地のラスプーチン役など、もうぴったりかと思うのだが、いかがだろう。

花組トップお披露目はダンスコンサート

柚香光と華優希のトップコンビお披露目は、年明け早々、1月7日からスタートする、『DANCE OLYMPIA』。ダンスコンサートであるこちら。柚香光自身、ダンスはもちろん、娘役と組み踊るデュエットダンスが好きらしく、このコンサートでは、彼女の魅力をたっぷり味わえることだろう。

花組は、宝塚にある5つの組の中でも一番歴史が長い。明日海りおが約5年間、この花組の先頭を切り、率いてきた。私個人としては、明日海りおのファンであるからして、トップがかわることに対し、ためらう気持ちが正直なところある。しかし、柚香光と華優希の新トップコンビが作り出す、新しい花組の姿を、一度は拝見したいなという気持ちも、やはりある。

すでに高い人気を誇る、柚香光。そんな彼女が、花組の新しい歴史の幕をスタートさせるのは、2020年。もうすぐそこだ。