はじめに

税率2%アップでスタートした消費税ですが、実施後10日過ぎても落ち着いていないのはやむを得ないとしても、飲食料品などの税率を据え置く軽減税率の導入による精算時の混乱やバラバラのポイント還元のあり方、高齢者に敬遠されているキャッシュレス決済の浸透度などにおいて課題が見えて来ております。いままさに、臨時国会が召集され、各党の代表質問がなされた後、10日からの衆議院予算委員会も開かれました。安倍首相は「消費税率増加についての様々な問題、課題については十二分に配慮してゆきます」と答えておりましたが、社会保障、とりわけ、年金に関しては以前に「老後資金について」および「年金財政検証」のコラムを投稿しました。今回は高齢者対策のみならず、世代を超えた「全世代型社会保障」について、学習したことを纏めながらコメントを差し挟んでゆきたいと思います。消費税増額についての考察は、すでにコラム投稿をしたところでありますが、税率の引き上げが「社会保障費」に対する財源ねん出を唯一の目的としていることについてコメントさせていただこうと考え、教科書的な堅苦しい内容になりますが私見を述べてゆきたいと思います。

社会保障全般についての私見

社会保障のあり方については大きく二つに区分されると考えております。つまり収入(保障推進のための財源確保)と支出(どのような補償を施策推進して行くかの)です。税金から賄うことが原則としても、少子高齢化社会の中で、いかにして社会保障実現のための(支え手)を増やし、拡充維持してゆくのかという最大の課題は避けて通れないでしょう。また、全世代に如何なる社会保障施策を設けて推進してゆくのかという課題も存在します。ここで、収支について考えてゆきたいと思います。9月20日に初会合が開かれました「全世代型社会保障検討会議」は、(人生100年時代)を見据えた社会保障制度の改革へ向けてスタートを切ったとものと言われております。
(ア)あらたに実現を見た全世代型社会保障施策・・・「幼児教育・保育の無償化」、「待機児
解消のための諸施策の検討」、来年4月から施行される「住民税非課税世帯に対する高等教育無償化」、低年金受給者への恒久的支援措置としての「年金生活者支援給付制度の創設」などが挙げられます。「幼保の無償化」については10月1日より実施されておりますが現場は混乱を来たしているようです。無料化により利用者が急増することも予想され、それに対応する職員が少ないので、施設側サイドからすれば、施設への助成や環境改善を含む職員確保のための施策を検討して欲しいとの声も上がっております。「待機児童の解消」については長年の懸案事項であり一朝一夕では解決しない問題であり今後も息長い論議が必要でしょう。「高等教育無償化」については、来年4月からの施行になりますが、住民税非課税所得世帯が対象です。いわゆる生活困窮世帯と見做される状態の世帯です。しかし、最低限の住民税(均等割のみ)を課税されている世帯には適用されないというのも理解できません。また、世帯の中に高校生が2人以上いる場合はどうなるのでしょうか。世帯の内、一定以上の所得があれば対象外というのも納得できません。一定水準家庭で教育費の支出の占める割合が大きい世帯も存在します。各地方自治体が無償化を目玉施策として頑張っておりますが、財源は主として我々が収める府県民税・市町村住民税で賄っております。これもまた将来に亘っての課題でしょう。低年金受給者に対する「年金生活者支援給付制度の創設」につきましては、この先、論議を呼びそうです。(イ)本来の社会保障・・「年金」「医療」「介護」の3柱は、いわば社会保障の(本丸)と言っても過言ではありません。毎年、膨大に膨れ上がる社会保障費は、国の一般会計歳出予算の約3分の1を占めると言われている最大の支出項目ですが、これを賄うための財源確保の手段が常に論議されています。いままでは国債発行を絡めて繋いで来ましたが、今回の消費税率引き上げに見られるように、所得税や法人税ばかりに負担をかけない税増収対策がとられました。消費税は低所得者には負担がかかる一面を持ち合わせると言われておりますが、所得に関係なく公平に負担していただける性質の税制という観点もあるからです。なお、令和4年には段階の世代が75歳以上になり始めることで医療や介護では国庫負担の増加が見込まれ、財政への影響が一段と大きくなると危惧されております。更に令和7年になると団塊世代が全員75歳以上になってしまいます。(後期高齢者)の仲間入りです。それに伴って医療や介護の国庫負担は急増します。医療については、10月9日に政府の「人生100年時代戦略本部」が、(日本医師会)(日本歯科医師会)(日本薬剤師会)の三団体とヒヤリングを持ちましたが、三団体からの感触は戦略本部が提案した素案に(待った)をかけました。示された素案は、①「75歳以上の窓口負担の2割への引き上げ、②市販品で代用できる薬の保険対象からの除外、③外来の受診者への受診時定額負担の導入の3点でした。これらはいずれも患者の負担増に直結する政策で、受診抑制につながりかねないし、受診機会の多い高齢者にさらに負担を求めて行くのは、社会全体で支える公的医療保険制度の理念に相いれないと言うのが三団体の答えでした。これまた難航する課題の一つです。介護については、現実の問題として、介護する側も介護される側も高齢という(老老介護)、高齢化に晩婚・晩産化が重なり介護と育児が並行する(ダブルケア)、介護で辞職や転職を余儀なくされる(介護離職)などの問題が台頭しつつあるのです。介護が原因による悲惨なニュースを見聞するたびに、何とも言えない気持ちになってしまいます。年金については、「人生100年時代を生き抜くための老後資金の用意を」と言われ、「年金支給のための財政検証」をしたところ、このままでは財政がもたないので社会全体で考えましょうと提案されております。今回の消費税率引き上げにより「年金生活者支援給付金制度」が始まりました。年金の最低保証機能を強化する目的で、約970万人が対象となる恒久的な措置であり、年約6千億円の財源は消費税収の増加分で賄うことになったのです。ただし対象は、年金とその他の所得が合計で88万円より少ない人で、且つ世帯に住民税が課税されている人がいないことが条件です。この制度も問題があると指摘されておりますが、それは、年間収入や課税か非課税かという観点だけで対象を決めるのが良いのかどうかという点です。高齢者には貯蓄の多い人もあれば、不動産を所有している人もおります。これらを反映しておらないとのことで、今少し検討を要するとの課題を残しております。(ウ)支え手(財源確保の増加のための措置)」・・・社会保障を維持するための財政的措置をどのように実現してゆくのかという最重要課題がのしかかってきます。検討会議などで論議されている項目は①公的基礎年金の拠出を65歳まで延長(現行は20歳から60歳)、②年金受給年齢を75歳までに延長(現行は65歳から70歳までの任意選択)、③年金を受給しながら働いている場合、いわゆる「在職老齢年金調整額」の見直し(現行は60歳から64歳までは月28万円以上、65歳から70歳以上は月47万円)をそれぞれ超える給与収入等があると年金受給額を減らすという制度、④中小に勤務するパート社員等の厚生年金への加入促進、⑤70歳までの就業機会の確保、⑥高齢者の医療費・介護費の負担増・・主に以上の見直し策を検討中と聞き及びます。先ず年金受給に対する諸施策はある程度理解できるものです。それは70歳になっても元気に働ける場合、就業機会が確保できるならという条件が付きます。私も65歳になって働こうと考え、ハローワークやインターネットなどで就労先を探しましたが、殆どが(清掃)(ビル管理人)(ガードマン)でした。身体の頑健な人なら就労できますが、職歴が事務職の場合は苦になります。働く意欲のある高齢者にもっと門戸を開くような施策を望みます。次に厚生年金の加入促進ですが、中小企業は厚生年金保険料の半額を会社が負担しなければならない点で積極的にはならず難色を示しております。また、後期高齢者の医療に伴う窓口負担を現行1割から2割に引き上げることには抵抗があるでしょう。介護費用についても利用料の引き上げが検討されているようですが、これまた抵抗大と見ます。私も現在年金受給の立場ではありますが、社会保険料(後期高齢者医療保険料・介護保険料)を年金から差し引かれております。妻も老齢基礎年金(年額48万円)から同様の社会保険料を差し引かれています。加えて、私の場合は所得税や
住民税も差し引かれますので、決して年金の貰い得ではありません。預貯金や不動産などの老後資金を有する高齢者もおられるでしょうが、大部分の年金受給者は、相応の負担をして国の財政が破綻しないように努力しているのです。

あとがき

冒頭に書きましたが、今回は教科書的で堅苦しいテーマを選択しました。社会保障費の増加はたいへん重要な問題であると認識しているのです。くしくも消費税率の引き上げとともに、新たに「全世代型社会保障制度の確立」ということが打ち出され、検討会議も設置されました。
ここで、サンケイ新聞の(主張欄)から引用いたします・・「政府が新たに設置した全世代型社会保障検討会議がその役割を担うべきなのに、その兆候が見えないことが気がかりだ・・」
「政府は団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり始める令和4年までに制度の基盤を強化したい考えだが現在の衆議院の任期が令和3年10月。首相は衆議院解散のタイミングを見計らう中で「痛み」を伴う改革の遂行に挑むことになる。説得力のある社会保障制度の全体像を描けるかどうかが検討会議にかかっている・・」