そればっかり

私は、ミュージシャンで物書きです。他にも仕事はしていますが、経済的な実入りはともかく、私が何者かと聞かれたら、ミュージシャンで物書きです、と答えるでしょう。
両方とも名乗るのに資格はいらないのである種、言ったもの勝ちの職業なのですが、名乗るのと仕事があるのとは全く別問題。いまのところ、ミュージシャンも、物書きも対価を伴うオファーがあるので、誰がなんと言おうとミュージシャンで物書きです。しつこいですが。

この仕事をしていると、ずっと考えているのは「共感」を得るにはどうしたらよいか、ということ。究極のところ聞く方や読む方が「感動」するのが一番目指すところですが、そこまではまだまだ厚かましくて近寄れず、今のところ目指すは「共感」。
人間というのは、「共感」を求めていて、「共感」できる場所にいきたい、通いたいと思うことがあります。友人と長々と会話するのはそこに「共感」があるから、というのも大きな理由でしょう。

「そうなのよ~。」と言い合えるからもっと話していたいのであって、「それ変だよ。」とぶった切られる相手とは長く一緒にいたくないもの。
だから、コンサート会場で「そうなのよ~。」、散文で「わかる~。」があればお客さんはもっと増えるはずだと、そんな下心満載で私は常に「共感」を目指しているのです。

人はどんなときに共感するのか

「共感」を万人から得るのは難しい。というか、まあ、あり得ません。人にはそれぞれ個性があり、同じ人の中にも物事によって基準が違っていたり、経験によって日々共感するものが変わる人もいるもの。だから、どんなに頑張っても「すべての人」から共感を得ることはできないでしょう。

しかしながら、人は自分に近いものや共感できそうなものを第六感?で感じ取り引き寄せる性質を持っています。少なくとも、私の音楽を続けて聞こうと思ってくださる方や、文章を読もうとしてくださる方は、ビジターさまを除いて何かしら私の生み出すものに共感してくださっているのだと思う、というか信じたい。
だから、万人は無理としてもそうやって私の作るものに興味を持ってくださる方の「共感」はぜひ引き出したいと、常々そう思って仕事をしています。

心を動かすために

「共感を得る」ということは即ち相手の心を動かす、心をつかむということとも言えそうです。となれば、「共感させるテクニック」というのは、営業という職種の方や、プライベートの恋愛にも使えそう。
私は、仕事で訪れたオフィスや、喫茶店で営業マンがお客さんを口説いているのに出くわすと、それを静かに聞かせてもらいます。念のため申し上げますが、盗み聞きが趣味なのではなく、営業マンがお客さんの心を動かすテクニックを学ばせてもらっております。

聞いていると、その営業マンの成績が優秀かどうかは結構早い段階でわかるのですが、その理由も結構わかりやすいもの。
申し訳ないですが、売れそうにない営業マンは何を考えているのかがよくわからず、「要するに商品を私に売りつけて自分の成績を上げたいのだね。」ということだけがびんびんと伝わります。
自分がこの商品をあなたに売ることをどう思っているかということは差し置いて、この商品は、ライバル店でも爆発的に売れていますとか、今なら10%割り引くだとか。こんなに良いものが割引価格で手に入るなんてあなたはラッキーだ、そういうことを、言葉を代え伝えています。その商品が目の前のお客さんにとって、もともと欲しいものである場合以外はたぶん売れないだろうな。隣のテーブルでコーヒーをすすりながら私はジャッジしております。

優秀な営業マンの話は、自分の率直な思いや目的を隠すことなく、かつ相手への思いやりがあるのです。「この商品はあなたにとって、このような点が有用だと私は思っています。」という言い方をしているよう。そして、時にはその場で相手の心をつかめる場合もあるが、それを急がず、「時間をかけてご検討ください。またこちらからも適宜連絡をしますが、何かあればご連絡ください。」という終わり方をしています。また、「必要の際は、しっかりサポートしますね。」と付け加える。要するに、優秀な営業マンは、「あなたと一緒に仕事がしたい」ということをまずアピールし、そこから私の利益も生まれるので頑張りますね、ということを隠すことなくお客さんに伝えているのです。

恋愛においてもそれは通じるところがあるように思います。例えば、ある男性が一人の女性を気に入った場合で、ラインアドレスを入手できたとします。「おはよう」「今日は会議が長引きそう」などという何気ないメッセージを送り続けても、相手の女性がその時点ですでに彼を気に入っていた場合以外は、恋が成就することはたぶん少ないと思います。
そんなやり取りを長々と続けるよりも、「僕はあなたの明るい笑顔に惹かれています。」とはっきり伝えるほうがよっぽど勝算は高いでしょう。

恋愛指南のコンテンツなどでは、何気ない会話が続けば相手にも気があるとか、「おはよう」を無視されたら脈ナシですとか書かれていたりします。
脈ナシもなにも、まだ何とも思っていない相手から毎朝挨拶されても、たぶん向こうは自分のことが好きなんだろうけれど、だから?くらいにしか感じない、少なくとも私ならそんなもんです。
それよりも、「あなたは仕事ができるから、そういうところが僕は好きです。」と言われたら、それまでなんとも思っていなかった相手でもなんとなく気になりだしたりするものです。

営業マンにしろ、恋愛にしろ、気のない相手の心を動かしていることに共通するのは、自分の意図をごまかさず相手に伝えている点。自分の「想い」を先に相手に伝えるというのは相手に対して敬意を払っていることだと思います。
「僕はあなたと仕事がしたい=あなたと仕事をすることで僕にもメリットがあります」「私はあなたが好きだからお付き合いしたい」それを先に言うのは勇気がいること。伝えたところであっさり振られてしまう可能性も十分にあり、そうすれば傷つくのは告白した方なのですから。そんなリスクを背負ってでも先に気持ちを伝えるという勇気がまず相手の気持ちに刺さります。

もちろん、お断りとなることもありますが、相手もその気持ちに対しては感謝しているのが通常です。
自分の「想い」がそれほどでもないようなふりをしつつ、なんとなく相手と仲良くなれたら良いな。まあ、ダメならフェードアウトしておけばよいか、という程度の気持ちであれば、それは相手も同じ程度にしか向き合ってくることはありません。

仕事にしろ、人間関係にしろ、「本音」でぶつかる勇気のない人に、人は心を動かされることなどないのです。

そして「共感」

話が飛びましたが、人の心を動かすのは自分の本音を隠さないこと、取り繕わないことだというのが一つです。もちろん他にもいろんな方法はありますが。
私のようなミュージシャンであれば、お客様の共感を得たり、心を動かしてもらうためには、素直でいるのが大切。デビュー当時は、いかに自分を大きく見せるかということに力を注いだこともありました。思えばそんな邪念はあっさり聞き手に伝わり、「大きく見せたい小さな人」として見られていたのでしょう。

あれから時が流れ、今の私がやろうとすることは、自分の持てる力を精いっぱい発揮して飾ることなく最大限の自分を見せること。それ以上でもそれ以下でもありません。
自分の力を一心に振り絞る姿以上に人を感動させるものはないと、思っています。
思っていてもなかなかできないもの。
しかしながら、そうありたいと願いながら、歌い、書いております。